夏のタイマッサージ旅行が終わった。前後2日の移動を除くと正味8日間、朝から晩までタイマッサージに接していた。
今回はこれまでの私のタイマッサージの先生である、ピシット先生、ワンディ先生に加え、チェンマイで有名な、ピシェット先生、そしてレックチャイヤ先生にもお会いし、直接施術を受けることができた。
その中で、名人の施術が何なのか、共通項を感じることができないかと考えていた。

力強い指圧と豪快なストレッチのピシット先生、一見、速く指を運んでいるようだが一つ一つが丁寧で強烈なワンディ先生、静かにしかし深く確実に入って来るピシェット先生。それぞれ全く異なるタイプだが、センやポイントを確実に捉え、そして、強烈に入ってくる。強いのだが決して痛くない。深いのだが受け入れてしまう、そういう共通項がある。もちろん、一押し一押しが琴線を奏で、恐ろしく気持ちがいい。

私は当初、その技術的な共通項は、「二段押し」「加速」だと考えていた。二段押しとは、皮膚に指を置いてから軽く圧を入れ、ターゲット(筋肉、腱、神経)に達したことを指で感じるまでが第一段階(これを「まずセットする」と表現する人もいる)。第二段階で本格的な圧を入れるという押し方だ。第一段階は0.2秒くらいの瞬間である。第二段階で1秒-2秒かけて深く押すのだが、ここで「加速」圧を使う。一本調子で圧を上げるのでなく、最高圧にかけて加速するのだ。逆に言えば、序盤は穏やかに圧が上がり、終盤に一気に最高圧に達する。

この押し方をすると、受け手は指が突き刺さってくる感じを全く感じない。そして、リラックスして圧を受け止めることができる。かなり深く入っても痛さを感じずに心地よさだけが残る。

ピシット先生やワンディ先生のような名人になると、指の運びは非常に速いのだが、「二段押し」「加速」をしているのでゆっくりやっているのと同じように心地よいマッサージになる。しかし、初心者にはそれは不可能なので、腰の上下運動と呼吸、そしてゆっくりと指を運ぶことでそれに近い押し方を実現することができる。
これこそが名人芸の秘密だとわかったつもりでいた。

ところが、レックチャイヤ先生に会ってその考えは崩壊した。

レックチャイアと言えば、ナーブタッチで名高い。ナーブタッチとは腱や神経をギターの弦のように弾くことで有名な手技である。他の人から実際に受けたことがあるが、結構痛かった。強烈なイメージがあった。

今回、レックチャイア先生に直接腕のマッサージをしてもらった。

驚いた。

そっと指を乗せると、圧がかかっているかかかっていないかわからないほど優しく、丁寧に腱を捉えてゆっくりと回転させる。そのタッチは今まで感じたことがないほど繊細で、優しかった。しかしその指先は私の心(いや筋肉)を確実に捉え、溶かすように揉み解してゆく。太陽に照らされて、凍り付いていた(力んでいた)心と体が緩んでいくかのようだった。

私は悟った。要するに、タイマッサージの奥義は押し方とか圧力曲線とかそういうものではない。どれだけ相手を尊重し、いたわり、愛しているか。相手の体に接した瞬間から、相手をいつくしみ、相手の気持ちになることができるかなのだ。強く入れようとか、センを捉えようとかそんな気持ちで解剖学的な筋肉に接するのではない。「人」に接しているのだ。相手の心に愛情を持って接する気持ちで相手の腕、脚を取ることこそが奥義なのだ。恐らくその結果として、「二段押し」「加速」は自然に実現される。

ナーブタッチは愛を持って施術されれば全く痛くない。そして効果が高い。ナーブタッチはレックチャイア先生の愛情のある指によって行われたからこそタイマッサージの主流になり得たのだと知った。

ついつい、理論や技術に走りがちになるが、タイマッサージとは、やはり、気持ちでやるものだということを思い知ったのが今回の旅行の総括である。

(写真はレックチャイヤ先生と私)