ワットポーのテキストと、トリガーポイントマニュアルの奇妙な一致。
これをどう説明したらいいのだろう?

そんな疑問を持っていた頃、浪越徹著「完全図解指圧療法」という本が手に入った。その本を開いてまた驚いた。タイマッサージで習う指圧ポイントとほとんど同じではないか。

日本の指圧は1939年頃に浪越徳治郎という人が確立した手技療法である。浪越氏が0から作り出したわけではない。それまでにも鍼灸やカイロプラティック、按摩や指圧療法は様々な流派で行われていた。浪越氏はそれらの知識を独自の視点で取捨選択し、更なる研究と改良を加えて指圧療法として体系化したのだ。指圧は世界的に評価が高く、トリガーポイント研究者も知らないわけはない。鍼灸や指圧がなぜ治療効果をもたらすのか、その後付け理論としてトリガーポイント理論がある。サイモンとトラベルがトリガーポイントマニュアルを発行したときにはトリガーポイントの治療法としては注射で薬剤を注入するのが有効としていた。その時点では指圧や鍼に対して否定的だった。指圧や鍼もトリガーポイントに対する有効な治療法であることを主張したのは後の研究者である。彼らが、トリガーポイント療法の臨床効果を示すのに指圧の知識を自分の著書に取り入れたとしても何の不思議はない。

そしてワットポー。1991年に手技を再構成する際にトリガーポイント理論や指圧の知識を参考にしたことは十分考えられる。なぜなら、タイマッサージ復興プロジェクトのひとつの目的は、西洋医学との接点を作ることで東洋医術としてのタイマッサージの有効性に信憑性を与えることだったからだ。

人体についての知識、そして医学的な知識は著作権や特許で保護すべきという次元ものではない。すべての知識を相互に利用し、助け合うべき人類共有の財産である。日本の指圧、中国の漢方、西洋の医学、そしてタイの伝統医療、これらは長い歴史の中で相互に知識を交換しながら発展してきた。今ではタイ厚生省は、タイマッサージをタイ古式マッサージとは言わない。タイマッサージも日々進化しているのだ。

「タイマッサージのルーツは指圧である」

という単純なものではないが、浪越氏がまとめた指圧の知識がタイマッサージにも何らかの形で伝わり、生かされていると考えるのは間違いではないだろう。