「タイ・マッサージの民族誌―「タイ式医療」生成過程における身体と実践」に面白い記述があった。
チェンマイのオールドメディソンホスピタル(レベルの高いタイマッサージ師が揃う)で「一番うまい人は誰ですか?」と聞いてみた。すると、「一番うまい人なんかいない。タイマッサージは相性なのだから、その質問は愚問だ」という答えが返ってきたという。
タイマッサージというものの本質的なことを突いているように思う。
人付き合いや恋愛においても誰が一番ということはない。波長が合う、趣味が合う、自分にないものを持っている等々、二人の相性により好き嫌いは生まれる。タイマッサージは単に身体を解す技術ではない。合掌から始まる一連の施術は人と人との出会いであり、対話である。指圧のひとつひとつ、ストレッチを行うときの脚の持ち上げ方、すべてにその人の性格、そして、相手に対する敬意が表現される。前回、うまい・下手はないと書いたが、相性の面からもそれは言える。ある人にとって一番の人は別の人にとってはいまいちだったりする。それは単純に押す圧力の強さということもあるだろうが、人と人との相性、生理的な抵抗感、持っている雰囲気、文化的背景、色々なことが関係しているように思う。