では、タイマッサージで酷使する部分を守るにはどうすればよいか?

まずはその部分に負担をかけないことである。例えば、腰。背筋を真っ直ぐにして頭を上げる(垂れ下げない)ことで腰への負担を軽減することができる。また、そもそも腰に負担をかける両膝をついて両腕に体重をかける姿勢を取らず、別の方法(エルボー・スタイル等)を取れば劇的に楽になる。
肩や腕の負担は主に筋力で押そうとするからいけない。脱力して体重だけで圧をかける癖をつければよい。

この、体を壊す原因である長時間の静的な筋肉への負担を脱力によってなくすことで体を守るというのがチェンマイのピシェット師の主要な理論である。脱力した加圧は振動や不連続性を伴わないため圧が極めて滑らかで、受ける側としても究極の気持ちよさが得られるというメリットがある。

では、脱力を極めれば体を壊さないか、それが体を守るベストな選択肢と言えるか?

私は、そうではないと考えている。もちろん脱力することは大事だし、体への負担も軽減されるだろう。しかし、考えてみれば、体に負担をかける姿勢で体を壊すのはタイマッサージセラピストだけではない。デスクワークや運転、立ち仕事等々、様々な職種で特定の筋肉に負担をかけて体を壊す可能性がある。そして、そんな人たちに推奨されることは「正しい姿勢」と「運動」である。この「運動」ということが、実はセラピストが体を壊さないために最も必要なことではないだろうか。

脱力を極めたとしたら、それは一日中寝ているのと同じことかもしれないが、全く筋肉を使わず、運動をしないことが体にいいかというとそんなことはないだろう。筋肉は動かされることで健康を保つ。長時間同じ姿勢を取るような筋肉への負担は望ましいことではないが、筋肉を全く使わないこともまた良くないことだ。

タイマッサージセラピストは仕事柄、座っている時間が非常に長い。しかも、タイマッサージは施術者が余り動かないで済むように設計されている。会社員でもコピーをしたり会議室に移動したり出張したりする際に相当歩く。人間は歩くことで健康になる動物なのに、セラピストは歩く機会がほとんどないのだ。

タイで最も著名なタイマッサージの先生であるピシット先生は、毎朝ジョギングとルーシーダットンを欠かさない。ピシット先生の手技はそれほど脱力を重要視しないが(もちろん正しい姿勢は重要)、ピシット先生は高齢でも健康を保っている。「タイマッサージをするから体を壊す」という特殊な話ではなく、他の職業の人と同じように単に「運動不足」だから体を壊すというのが本当のところではないかと思っている。