神秘的な施術を含め、様々な手技療法の後に発せられる一言。
「楽になったでしょ」
これを言われると、「いや、全然変わらないです」とは言いにくい。そんなことを言ったら険悪な雰囲気になってしまう。自分のために頑張ってくれた人にはありがとうと言いたい。だから、「本当!楽になりました」と言わざるを得ない。それは言いたくないわけではなく、懐疑的な気持ちを抑えながら、”そう、確かに楽になっている”と自分に言い聞かせながら、楽になったことを本当に確認しようとしながら、何となく楽になったかもしれない、だから、嘘を言っているわけではない、たぶん本当に楽になったのだろう、だったら、楽になりました!と言うのが正しいことだ。
といった思考が働いている。一種のホメオスタシス同調である。日本人は特に相手に合わせる傾向が強いので、相手の言うことが正しいとという方向に本能的に自分の思考も同調させようとする。
別の言い方をすれば、洗脳の初期段階でもある。催眠術やディベートでもよく使われる手法だが、いくつか相手が否定しようがない事実を並べた直後に、事実かどうかわからないことを言い放つとそれも事実に聞こえる。そういうテクニックを駆使しながら、自分が話すことはすべて正しいと相手の無意識レベルにインプットする。カルト教団で洗脳されている人はすべてこのプロセスを経て、教祖が言うことは何でも正しいと肉体レベルで信じ込んでいる。
マッサージのような施術でも、これはよく使われる。空間を支配している人物(教祖)が複数の従者から素晴らしいと崇められている状況に入ってしまった患者は、自分の感覚よりも教祖が言うことの方が正しいと心から思ってしまうだろう。体が柔らかくなったとか痛みがなくなったというのは、測定不能な、感覚的な、心理的なことなので、実際には強烈に痛くても、痛くないという催眠術をかけられれば痛くないのだ。首が以前より回るようになったかどうかも、以前より頑張って回せば回るものなのだ。
ただ、言葉による誘導が悪いことかというと、そうも言い切れないような気もする。それで、患者さんの苦痛が軽減され、快適な日常に戻れるならそれでいいではないか、そう思うのだ。
言葉による誘導はヨガの先生も多用する。ヨガというのはもともと宗教的な瞑想が起源なのでグルによる催眠誘導のようなことは普通に行われてきたし、金色に輝く世界を体験できるなら、それでいいとされている。
昨今、数人のカリスマ的なヨガの先生が人気を集めているが、空間支配や視線の使い方、言葉をかけるタイミング、声のトーン、本人が催眠誘導のテクニックと意識しているかどうかは別として、確実にそういう技術を使っていると思う。生徒さんは「とにかく先生が素敵」「声に癒される」そういう反応をする。
私自身は、ピシット先生の施術は言葉など使わなくても十分な効果があると考えているが、言葉を使うテクニックを使うべきかどうかは今後の課題である。