タイマッサージを始めて間もないころ、タイ・マッサージの民族誌という本を読んだ。
主にチェンマイのオールドメディソンホスピタルに取材してタイマッサージの民族性について考察した本だが、その中でオールドメディソンホスピタルのセラピストに「誰が一番上手ですか?」と聞いた時の答えが印象に残っている。
その答えは「誰が一番とかはない。タイマッサージは相性のものなので、顧客によって好みのセラピストは異なる。だから順位などつけられない」というものだった。
そんなものか、とその時は思った。確かにセラピストによって強かったり、優しかったり、速かったり、独特の癖があったりするし、その施術には人間性や性格が色濃く反映されている。人間関係も相性があるのでタイマッサージもきっとそうなんだろう。私が嫌だと思ったセラピストでも他の方は機嫌よく指名しているという事実もある。
しかし長年が経過し、何度もオールドメディソンホスピタルやその他で施術を受けているうちに、やはりうまい下手はある、と思うようになった。オールドメディソンホスピタルであっても下手な人はいる。もしそれを下手と感じずに気持ちよく受けている人がいるとすれば、その人は味覚音痴か、もっとうまい人がいるのを知らないだけだ。うまい人と言うのは実はあまり相手を選ばない。相手の好みや相手が求めていることを会話や体の状態から感じ取り、チューニングするので誰に対しても素晴らしい施術を行う。だから相性はあまり関係がない。例えば、チェンマイで名高いシンチャイ先生やタノン先生のマッサージを下手だと思う人はよほどのへそ曲がりだろう。
本に書いてあった、「タイマッサージは相性だから」というのは、単に順位付けされたくない、したくない、という言い訳だったに違いない。
ただし、うまい下手でうまいに分類される人の中には治療を意識してトリガーポイントを狙い撃ちするように痛いところばかり強く押す人がいる。それは私好みの施術ではないが、そういう全体的に痛いのが好きな人もいるのかもしれない。それは確かに相性の問題になるのだろうが、痛いのが好きでない人に痛いマッサージをするのはセラピストの自己満足なのでやめた方がいいと思う。