七夜待

ついに七夜待が公開になった。タイマッサージをテーマにした河瀬監督の映画だ。ミニシアター系で公開される作品なのでメガヒットというわけには行かないだろうが、癒しに関心がある女性というセグメントに限れば、かなり見られるのではないかと思う。このため、タイマッサージ業界からの期待も大きい。タイマッサージサロンやタイ古式マッサージスクール、そしてタイ料理、多くのサイトが相互リンクを貼っている。このサイトも例外ではない。

昨日、スクールに申込みに見えたお客様が、早速見たとおっしゃっていた。映像が綺麗で、ストーリーもなかなか良かったそうだ。私も時間を作って是非見に行きたいと思う。

ところで、七夜待の撮影はタイで行われたのだが、撮影隊がワットポータイマッサージスクールに勉強しに来たと私の友人の宮原さん(ワットポーの日本人教師)が言っていた。河瀬監督をはじめとしたスタッフが思想や技術をしっかり学んだというのは大変好感が持てる。

そんな感じで、ワットポーにはちょくちょく芸能人が来るらしい。
タイ古式マッサージ 中島史恵の毎日スッキリ!の撮影もワットポーで行われた。理事長は真面目なタイマッサージのDVDを作ると思っていたのだが、できたDVDを見て大変驚き、そして激怒したという。保守的なタイ人からすれば中島史恵の露出度が高すぎたようだ(笑)

タイマッサージサロン

タイに行くなら、タイマッサージサロン!

本場のタイマッサージを楽しみに旅立つ人も多いだろう。
しかし、何の準備もなしにいいマッサージに出会う確率は低い。

フットマッサージ、日本ではリフレクソロジーと言われている脚と足のマッサージ。これは比較的当たりはずれが少ない。技術自体が容易なこと、マサージ師の気分に左右されにくいのがその理由だ。

ところが、全身に施すタイマッサージ、これは施術者により大きな差が出る。

まず、ホテルの近くの繁華街にたくさんあるタイマッサージショップ。おばちゃんが入り口で呼び込みをしているあれだ。この類の店は、中の下である。若いお姉さんより年季の入ったおばちゃんの方がうまいに違いない、これは全くの幻想で、おばちゃんは実は最近その店で覚えたばかりだし、年季の入ったおばちゃんは日夜手抜きの技術を磨いてきた。値段は結構安いが、技術も安い。

次にマーブンクロイセンターのようなショッピングモールにある小奇麗なショップ(サロンと言うほどの雰囲気はない)。ガラス越しに施術が見えてオープンな感じだ。こういう店は、若いお姉さんがセラピストをやっていることが多いが、技術は中の上である。やる気のない人に当たったらだめだが、大抵の人は若いだけに一生懸命やってくれる。値段はおばちゃんショップより少し高いが、真面目ゆえに心地よい。技術は完全ではないが、心を込めてやってもらえればそれなりに気持ちがいいものである。便利だし無難な選択肢と言えよう。

旅行者に身近なのがホテルのマッサージサービス。客室まで来てくれるし、ホテル内のサロンもある。料金は大差ないが、客室で受けるべきではない。まず、ベッドでやってもらうと、とにかくすぐに寝てしまう。起きた頃には終わっている。気持ちがいい記憶がないのは勿体無い。そしてベッドは沈み込みすぎるので、指圧、手掌圧がかかりにくい。ホテルのベッドはタイマッサージには適していない。
ホテル内のサロンは快適だ。個室か、カーテンで仕切る半個室で、広々としたスペースでマッサージを受けられる。ホテルのセラピストのレベルは低くないのでレベルは上の下くらいだ。値段はショッピングモールと同じくらいかちょっと高いくらいだ。

少し前にブームになったスパ。高級ホテルに併設されていることが多い。値段はめちゃくちゃ高い。日本で受けるよりも高いくらいだ。こういうところがどのくらいの施術をするのか私は知らない。行ったことがない。

では、上の上のマッサージをするのはどこか。バンコクならワットポー、チャンマイならオールドメディソンホスピタル。そして、街の名もないマッサージ屋にいる当たりのセラピスト(当たる確率は10%くらい。当たったら必ず名前を紙に書いてもらおう。そして次回に予約・指名する。そうすれば安い料金で確実にいいマッサージが受けられる)。その他、ノンタブリの厚生省伝統医療開発局内にある施術所や、プラチンブリ県のアブハイブーベホスピタルの施術所も値段は格安だが抜群の技術がある。ワットポーは別として、凄腕のセラピストの多くは厚生省の長期養成セミナーの出身者だ。

そして日本のマッサージサロン。日本人というのは真面目で、勉強熱心で、そして思いやりに溢れている。日本のサロンは実は本場タイのサロンの平均値より遥かにレベルが高い。

タイに行ったからといって素晴らしいマッサージに簡単に出会えるわけではないのである。

セン理論(1)

タイマッサージの理論と言えば「セン」である。センはなぜか日本語と同じ線のことであり、英語ではラインとなる。セン理論はインドの伝統医療であるアーユルヴェーダが元になっている。
アーユルヴェーダの師であるプラバロム・クルー・シーウォクゴマパット老師によると、「我々の身体は長さが約1ワー(2m)以下、厚さが約1クープ( 12インチ)以下、幅が約1ソーク以下(1m)で、深さ約2インチの所に定期的な風が通っているセンというものがあり、このセンは身体をきつく締めていて約72000本あり、重要なセンは10本である」ということだ。

中国の経絡理論と似ているが、セン理論と経絡理論は別物である。タイマッサージの指圧ポイントと中国のツボもまた別物である。ただ、人間の体は世界共通なので、結果的に似たようなものになったのだろう。

ところで、そもそもセンとは何なのかはタイでマッサージの先生に聞いてもよくわからない。センはセンであり、風が通っているというばかりだ。人体に空気が通る管などないので、何かが循環しているとすれば血管(血に酸素が溶けているので風が通っていると言えなくもない)かと思うが、押しているポイントは明らかに血管ではない。そこで、医者が死体を解剖して10本のセンに対応する何かがあるかと調べてみたが、何も無かったという。

センとは医学的には何なのか? いったい我々は何を押しているのか?

謎は深まるばかりである。

続く

タイマッサージのリズム

タイマッサージでよく使う言葉は、

バオバオ 弱く
シャーシャー ゆっくり

なぜタイ語は音を二つ連ねるのか? 謎である。

話が逸れたが、このシャーシャーというのがタイマッサージのポイントで、習い始めた生徒は全員この言葉で戒められる。なぜゆっくりやらねばならないのか。

中国の按摩は忙しない。しゃかしゃか揉み揉みで進んでいく。それに対してタイマッサージは眠くなるようなゆっくりさ、これがタイマッサージの特徴になっている。一つ一つの指圧をじっくりやる方が気持ちがいいということもあるが、本質的には呼吸である。深呼吸に合せて押すから自然にゆっくりになる。

実際にやってみればわかるが、体重を乗せる時に息を吐くと指の圧力が自然に、徐々に高まり、実にいい感じで指が入っていく。押される人も押されながら息を吐くと指を自然に受け入れて筋肉が弛緩する。施術者が呼吸のリズムで押しているとそういうリズムが生まれ、二人の呼吸が合ってくる。これが理想的なタイマッサージのリズムである。

ヨガでの呼吸と同様に、タイマッサージも呼吸が非常に重要で、この呼吸=指圧のリズムが深いリラックス感を受け手、そして施術者にもたらす。

「ゆっくりやらなければならない」と言われるとなぜ?となってしまうが、「呼吸に合せてやらなければならない」と言えば素直に納得できるのではないだろうか。

腰痛の原因

NHKスペシャル「病の起源 腰痛」を見た。

「腰痛は二足歩行を始めた人間の宿命」というのはよく使われるフレーズだが、それは正確ではないのだと言う。

二足歩行そのものが悪いのではなく、田植えをするような腰を曲げた姿勢を長時間とることが腰痛の直接的な原因になるらしい。このシリーズの全体を支配するテーマが「文明やライフスタイルの進化に、体の機能の進化が追いつかないことが病気の原因になる」ということがあるのだが、腰痛も然りということだ。稲作が始まったのは数千年前という最近のことだが、現代人の体はそれ以前に長く続いた狩猟生活に最適化されている。だから、田植えの姿勢を取る事は人体にとって想定外なことで体が壊れてしまう、そういうことだ。

あと、数万年すれば、そういう姿勢に耐えうる体に進化した人類になるのだろうが、それまで待ってはいられない。どうすればいいか。

田植え以外にも、工場のラインでの作業、パソコンでの作業、建設作業等々、腰に負担をかける姿勢を長時間取る人は多い。だから多くの人が腰痛になる。腰痛は椎間板の損傷が原因なので、椎間板の損傷が引き起こす二次的な筋肉の収縮による痛みは(筋肉を弛緩させることで)軽減することができるが、根本原因をマッサージで取り去ることはできない。腰痛の人は生活習慣を変えなければならない。

とにかくそういう姿勢を長時間取らないこと、できるだけ背筋を伸ばし、姿勢の異なる作業を入れたりしながら腰への負担を減らすことが大事だ。そして、NHKスペシャルで言っていたことは歩くことが椎間板の発育にとてもいいということ。太古の昔の人類がやっていたことをやりなさいということだ。

タイマッサージのセラピストも人ごとではない。猫背でタイマッサージを行うと確実に腰痛になる。セラピストは業務で歩くことはないし、ほとんど同じ姿勢で施術を行う。背筋を伸ばして施術を行う、そして意識して歩いたり、体操をしたりすることが体調管理に必要だ。マッサージでよく使う高さのあるベッド、あれも有効だ。高さのあるベッドは膝への負担、そして腰への負担を減らす。オイルマッサージもやりやすいので、自宅開業の人も、長時間施術をするようになったら購入を検討してもいいだろう。

タイマッサージの起源(4)

ワットポーのテキストと、トリガーポイントマニュアルの奇妙な一致。
これをどう説明したらいいのだろう?

そんな疑問を持っていた頃、浪越徹著「完全図解指圧療法」という本が手に入った。その本を開いてまた驚いた。タイマッサージで習う指圧ポイントとほとんど同じではないか。

日本の指圧は1939年頃に浪越徳治郎という人が確立した手技療法である。浪越氏が0から作り出したわけではない。それまでにも鍼灸やカイロプラティック、按摩や指圧療法は様々な流派で行われていた。浪越氏はそれらの知識を独自の視点で取捨選択し、更なる研究と改良を加えて指圧療法として体系化したのだ。指圧は世界的に評価が高く、トリガーポイント研究者も知らないわけはない。鍼灸や指圧がなぜ治療効果をもたらすのか、その後付け理論としてトリガーポイント理論がある。サイモンとトラベルがトリガーポイントマニュアルを発行したときにはトリガーポイントの治療法としては注射で薬剤を注入するのが有効としていた。その時点では指圧や鍼に対して否定的だった。指圧や鍼もトリガーポイントに対する有効な治療法であることを主張したのは後の研究者である。彼らが、トリガーポイント療法の臨床効果を示すのに指圧の知識を自分の著書に取り入れたとしても何の不思議はない。

そしてワットポー。1991年に手技を再構成する際にトリガーポイント理論や指圧の知識を参考にしたことは十分考えられる。なぜなら、タイマッサージ復興プロジェクトのひとつの目的は、西洋医学との接点を作ることで東洋医術としてのタイマッサージの有効性に信憑性を与えることだったからだ。

人体についての知識、そして医学的な知識は著作権や特許で保護すべきという次元ものではない。すべての知識を相互に利用し、助け合うべき人類共有の財産である。日本の指圧、中国の漢方、西洋の医学、そしてタイの伝統医療、これらは長い歴史の中で相互に知識を交換しながら発展してきた。今ではタイ厚生省は、タイマッサージをタイ古式マッサージとは言わない。タイマッサージも日々進化しているのだ。

「タイマッサージのルーツは指圧である」

という単純なものではないが、浪越氏がまとめた指圧の知識がタイマッサージにも何らかの形で伝わり、生かされていると考えるのは間違いではないだろう。

チェンマイのマッサージスクール

タイマッサージを習うのにチェンマイに行く人が多い。バンコクにもワットポー、ピシット、プッサパといった日本人にも通いやすい学校はある。ではなぜチェンマイなのか。

まず、とにかく安く上がることが大きい。今ではワットポー本校の30時間コースでも8500バーツである。昨今の円高で今日現在、1バーツ=2.9円となっているのでかなり割安感は出てきたが、それでも25000円になる(十分安いのだが・・・)。チェンマイでは例えばワンディだと60時間で4000バーツなのでワットポーの四分の一である。そして滞在費も安い。バンコクにも安宿はあるが、都会なので女性が一人で泊まるのは何となく怖い。チェンマイの安宿は周辺の雰囲気がのんびりしていて安心感があるし、散歩をするのも気持ちがいい。

チェンマイは観光地だというイメージも大きい。治安も良さそうだし、観光を兼ねて長期滞在できるというのは魅力だ(実際は、寺院とジャングルくらいしかないので、そんなに楽しいわけではないのだが・・・)。

決定的なのは、スクールの選択肢がたくさんあることだろう。大きな学校ではオールドメディソン、ITM、ワットポーチェンマイ校、中規模な学校でTMC、ロイクロ、ニマンヘミン、小規模な学校でワンディ、レックチャイア、ママニット、マニアックな学校でピシェット、サンシャインという名前がすぐに挙がる。チェンマイこそタイマッサージのメッカかと思ってしまうのだが、実はどの学校も外国人向けということを強く意識しているので、タイ人の生徒は余りいない。タイ人はもっと安い厚生省のセミナーに通ったり、働くお店で習ったりするので(タイ人にとっては受講料が高い外国人向けの)スクールには通わないのだ。

バンコクのワットポーは、タイ人向けには外国人の半額程度で教えるのでタイ人だらけである。だから、たくさんのタイ人と仲良くなって、昼食を共にしたりしながら楽しく習うならワットポーである。

話が逸れてしまったが、何が言いたかったかというと、外国人向けとはいえ、チェンマイが現在のようにタイマッサージのメッカになったのはシントーン氏の功績によるものである。数年前に大変残念なことにお亡くなりになったが、チェンマイスタイルマッサージはシントーン氏の作品であり、ワンディ先生もピシェット先生もITMのチョンコル先生もロイクロのクッキー先生もニマンヘミンのタノン先生も皆シントーン氏のオールドメディソン出身である。ピシェット先生(バンコクのピシット先生とは別の人物)にはどうやら別の師がいたらしく、今ではよりアクロバティックで宗教的なマッサージワールドを繰り広げているらしいが、オールドメディソンがなければ現在のピシェット先生はいなかっただろう。

一人でこれだけの文化を築き上げたシントーン氏、もっと評価されるべき偉人だと思う。

ワットポーの日本人教師

バンコクにあるワットポー・タイトラディショナル・マッサージスクール。ここに、日本人教師がいるのをご存知だろうか。

宮原由佳さん。ワットポー初の外国人教師である。

ワットポーに限らず、タイのマッサージスクールは外国人を本格的に育成することに慎重である。タイ政府の方針で知的財産の国外流出を恐れているからだ。そんな状況で、宮原さんはワットポーの教師となった。そこに至るまでにはもちろん、筆舌に尽くしがたい苦労があった。

私もお会いしたことがあるワットポー・スクールの理事長、そして現在、経営を取り仕切る理事長のご子息のセラート氏。お二人とも気さくで聡明、素晴らしい方だが、その二人から宮原さんは絶対的な信頼を得ている。

それは宮原さんに会えばわかる。私利私欲のない、大変素晴らしい人柄の方だ。もともとは日本で教師をやっていたのだが、旅行でタイを訪れたときに、タイマッサージと出会い、基礎コースを終えて帰るつもりが何か運命的なものを感じて、これは徹底的にやらねばならないと思ったそうである。そして、長期滞在を決心し、理事長に頼み込み、ワットポーでマッサージ師を勤めながら技術を何年もかけて磨いてきた。マッサージ師の収入は日本人の感覚からすれば大変低い。そんな状況で、異国の地で、一生懸命、タイマッサージを学んできたのだ。その姿を見れば、理事長もセラートさんも認めざるを得ない。こうして、外国人として初のワットポーの常任教師となったのが宮原さんである。

タイ語はもちろんペラペラ。マッサージの技術は天下一品である。ワットポーで事前に宮原さんを予約すれば誰でも通常料金でやってもらえる。それで私も何度かお願いしたのだが、タイの先生以上にすさまじいレベルである。まず指が違う。外見は美しい華奢で色白な女性なのだが、指が体に触れた瞬間からこれは違うと思い知らされる。非常に力強く、そして静かに体に入ってくる指だ。それに、日本人の細やかさが加わるので、もう何も言うことはない。天国にいる気分を味わえる。

先生としても、多くの方に施術してきたので何かをつかんだという事だ。日本語でその奥義を解説してもらえるのでワットポーで習うなら是非とも宮原さんを先生に指名すべきである。もし、スケジュール的に難しければ施術だけでも受けなければ損だ。あれだけの技術が、あんな料金で受けられるというのは信じがたいことだと断言できる。

タイマッサージの起源(3)

タイマッサージに限らないことだが、実は、マッサージがどう体にいいのかは医学的によくわかっていない。肩こりや腰痛は命に関わる病気ではないので優先順位として対象になりにくかったからだ。

だから、鍼灸もマッサージも効果があることはわかっていても、それが科学的にどういう作用をもたらしているかは謎だった。

先日、NHKスペシャルで腰痛などの痛みは精神的なことが原因になりうるという驚きの医学的知見を伝えていたが、肩こりや腰痛のような外面的な痛みはその他に色々なことが原因となる。色々なことが原因となり、色々なことが症状改善に効果があるので話がややこしくなる。

その中で、ひとつの有力な仮説がトリガーポイント理論である。トリガーポイント理論はアメリカの医者であるサイモンとトラベルが1983年に出版したトリガーポイントマニュアルで世に出た。

トリガーポイント理論についての説明はまたの機会に譲るが、これまで西洋医学の世界では無視されてきた筋肉の痛み、そしてその治療法についての初めての理論的な仮説であり、その内容が意外であると同時に非常に説得力があったため、鍼灸治療師やカイロプラティック治療師からも支持を得、今日現在、鍼灸マッサージ療法のバイブルとなっている。

しかしながら、今でもトリガーポイント理論で説明できない症状や治療法は多々あり、人間の体というのは実に複雑で、いろいろなことが原因で不調になることがわかっている。前述した精神的なことが原因になるというのもつい最近わかったことなのだ。

それを踏まえた上でトリガーポイントに戻る。トリガーポイントについての本はたくさんあるが、実用的なのは「トリガーポイントと筋筋膜療法マニュアル 」だ。この本は痛みの症状別にトリガーポイントを図で示し、そこを指圧すると症状が改善することを示している。

その本を見ていて、なんとなく前に習ったワットポータイマッサージスクールの治療マッサージのテキストを開いてみた。

あれっ? ここが痛いときはここを指圧する、ワットポーのテキストはそういう感じで構成されているのだが、なんと、「トリガーポイントと筋筋膜療法マニュアル 」に記されている症状と指圧ポイントと異様なまでに一致していることに気がついた。

これは偶然ではない。どちらかが盗んでいる。そう思わざるを得ない一致である。

続く

タイマッサージの起源(2)

タイマッサージの世界でシワカ・コモラパと並んで重要なのがオンナモである。タイのマッサージスクールの壁にはシワカ・コモラパの肖像画、そして毎朝レッスンが始まる前にオンナモという呪文を唱えるのが定番だ。

on namoで何を唱えているかと言うと、シワカ・コモラパさまにお仕えいたします、力をお与えください云々である。

一体いつからこの風習は始まったのか。

「タイ・マッサージの民族誌―「タイ式医療」生成過程における身体と実践」によると、チェンマイのオールドメディソンホスピタルを創設したシントーン氏が始めたらしい。今でもオールドメディソンホスピタルにはシワカコモラパの祠があり、毎朝生徒がお祈りを捧げている。この祠は近年建てかれられたものだが、シントーン氏がオールドメディソンホスピタルを設立した時に、同様の祠(神棚)を作ったのが起源だとされる。シントーン氏のタイマッサージはワットポー、理容院、病院の知識を元に何年もかけて練り上げたものだが、それだけでは権威が足りない。シワカ・コモラパから続くという歴史、根拠を与え、更に仏教的な神秘性を加えることで大変有難いものだというイメージを作ったのだという。確かに中国漢方もインドアーユルヴェーダも長い歴史に裏打ちされている。タイの伝統医療にも数千年の歴史が必要だったのだ。

ということは、50年前にはシワカもオンナモも認知されていたなかったことになる。何だかがっかりだが、だからと言ってシワカやオンナモを全否定する気は毛頭ない。これらはタイマッサージ師の心身の健康を保つ上で非常に重要な役割を果たしているからだ。もちろんタイマッサージを受ける人にもいい影響を与える。

「信じるものは救われる」

なんだ、プラシーボ効果か、と思われるかも知れないがそれ以上である。タイマッサージの極意は施術者が疲れないにある。肉体的に疲れない工夫だけでなく精神的にも疲れないことが重要だ。そのためには決して一生懸命自分のエネルギーを注ぎ込んではいけない。シワカ、あるいは宇宙のエネルギーをいただいて、その力に頼ることが大事で、自分は単なる媒介として無意識になってしまう。タイマッサージを始める前の合掌はそういう精神状態になるトリガーとなる。

たかだか50年前に考案されたキャラクターではあるが、嘘から出た誠。シワカもオンナモもタイマッサージの一部としてなくてはならないものになった。それは決して悪いことではない。