通常のスクールのグループレッスンでは教えていなくて、ピシェット道場では教えていることは以下の3点である。

1)心のあり方
2)トリガーポイントの触診
3)正しい体の使い方

これだけのことなのだが、それぞれが奥が深く、トレーニングには時間がかかる。一つ一つ説明していきたい。
まず、心のあり方。これは施術者が心身共に健康であることを日常的に目指すことである。澄み切った、思いやりに満ちた心で相手に接しないと相手の体の状態を感じることができない。自分自身がリラックスしていないと力みが相手に伝わったり、手に汗をかいたり、手が冷えたりする。自分の体に故障があると加圧の際に歪ができ、手技がスムーズに決まらないだけでなく自分の体を更に悪化させてしまう。自分の心が病んでいると指先、全身から悪い気が出てそれは相手に確実に伝わってしまう。といった様々な理由があり、まずは自分の心と体をいつもいい状態にすることが施術者の務めである。具体的には、日常的に運動、ストレッチ、ヨガ、正しい食事を行い体の健康を保つ。そして、毎朝、お経を唱え、瞑想をすることで心の健康を作る。となるが、ピシェット道場で推奨されているように仏教徒になることだけが心の健康を作るわけではないし、仏教徒になれば必ず心が健康になる保証もないので、人それぞれの方法で心の健康を作ればいいと思う。
とはいえ、瞑想やストレッチ、筋トレをすべて含むヨガを日常的に行うことが、体と心の健康を作ることは確かなので、宗教色の薄いフィットネスとしてのヨガを行うことはセラピストにとっていいことだろう。

次に、トリガーポイントの触診。これはピシェット道場ではセンシングと言われることで、相手の体を触って、指圧すべき筋肉やトリガーポイントを見つける技術である。初めての人はこれがトリガーポイントだと言われても、そこを触っても、よくわからないのが普通だが、数多くの体を触っているうちにわかるようになる。それは、どの体もトリガーポイントができる位置がほとんど同じであること、そして、その人の姿勢や症状からトリガーポイントのできる場所の予測ができるようになるからである。指先だけでなく、関節の可動域の確認や、相手の体全体が発する雰囲気を感じ取るセンスや、解剖学の知識が必要なため、トリガーポイントを触診する能力は個人差が大きいが、繰り返し色々な体を相手に施術をし、常に、相手の体の状態を感じることを意識することで経験的にこの能力は身に付く。ただし、何も考えずに施術している限り、何年経っても感覚は磨かれない。その意味で最初にセンシングの概念をしっかり理解し、日々の施術はそのトレーニングであるという意識で行う必要がある。このセンシングの感覚を最大化するのに最も重要なことは、前に述べた、自分の体と心の健康であることは言うまでもないだろう。

最後に、正しい体の使い方。トリガーポイントを加圧したり、凝った筋肉をストレッチする際に、無理のない体のさばきで、施術者がスムーズに手技を決めないと相手に不要な痛み、不快感を与え、筋繊維を損傷して揉み返しの原因を作り、筋肉や人体、骨を損傷する危険もある。安全で、効果的で、気持ちのいい施術は、施術者の正しい体の使い方によって実現される。
そして、正しい体の使い方をしないと施術者自身が自分の体を痛めることになる。腰を痛め、指を痛め、体に歪を作り、施術を行うことが苦痛になり、体を壊してしまう。
では正しい体の使い方とは具体的にどういうことなのか? それは、施術者の体は錘の付いた構造物であるということを理解することである。体を相手に圧力をかける道具だとみた場合、脊柱や腕といった骨格は力を伝える梁(はり、span、棒)であり、ついている肉は力を与える錘(おもり、重さ、質量)である。力を伝える棒をトリガーポイントにセットしてまっすぐに重さを伝えていくのが手技である。このときに施術者の関節に負担をかけず、筋力を使うことなく最大の荷重をかける方法を習得するのだ。簡単に言えば背筋を伸ばし、適切な加重となるポジションを取り、丹田を寄せるようにゆっくり圧を高めていく。指や足でポイントを直接加圧することもあれば、足や膝、肘をポイントにセットして両手で相手の体を引くこともある。施術によって行うことは異なるが、基本は同じである。やり方を聞くと簡単なことなのだが実はそんなに簡単ではない。ゴルフはボールをクラブで打つだけの簡単なことだがボールを真っ直ぐ飛ばすのは物凄く難しいのと同じことだ。正しいフォームを繰り返し練習するだけでなく、スポーツ競技を行うときのような邪念のない心、そして、体の柔軟性や施術を安定させる筋力(ここでいう筋力は圧を強めるための筋力ではなく、自分や相手の骨格を支えるときに体を痙攣、振動させないための筋力)が必要なので、やはり第一番目に説明した自分の体と心の鍛錬が必要となる。

ピシェット道場では、これらのことを一つ一つの施術について、お互いに納得できるまでじっくりトレーニングする。だからスクールではなく、道場と呼ばれる。しかし、道場でのトレーニングを行えば必ず身に付くというものでもなく、毎日の施術を心を込めて繰り返し、10年くらい経てば少しいい感じでできるようになることだと思う。その意味で、ピシェット道場に数日滞在しようが、数か月滞在しようが、いいタイマッサージを行うためのきっかけ(ヒント、出発点)を得るという意味では同じことであり、そこからどれだけタイマッサージへの理解を深め、技術を極めていけるかは本人のモチベーション次第だと思う