チェンマイのピシェットと言えば、タイマッサージをタイで学んだものなら一度は聞いたことがあるだろう。タイマッサージやアーユルヴェーダの神秘的なイメージを最も体現している伝説的なマッサージ師である(バンコクの著名なマッサージの先生ピシット氏とは別人)。

アメリカやヨーロッパの白人はビートルズの時代から、東洋の神秘性に魅了されてきた。それはヨガであったり、インド音楽の旋律だったりする。今、日本で大変な問題になっている大麻もアジアでは瞑想の道具だといった誤解(理解?)も加わり、悟りを求める白人のアジア巡礼は今でも盛んだ。

ピシェット師はそういう白人に圧倒的に支持されている。

もともとはオールドメディソンホスピタルの講師だったので、シントーン氏のチェンマイスタイルの使い手であった。しかし、オールドメディソンホスピタルを退職後は、チェンマイスタイルではない、独特の施術を行うようになった。私がこの目で見たわけではないので断言はできないが、多くの写真を見る限り、チェンマイかその周辺の伝統的なマッサージを先祖から受け継いできた長老(タイ厚生省のセミナーで紹介されていた。既に亡くなっている)かその弟子の手技を学んだと思われる。

田舎に伝わるタイマッサージは足や体を使ってアクロバティックな施術を行うが(その主な目的は施術者の負担を減らすこと)、その特徴が最大限に出た施術がピシェット師の特徴である。

ピシェット師は、「一度、今まで学んだやり方をすべて捨てなさい。白紙に戻って、患者と向き合いなさい」と説く。つまり、チェンマイスタイルを捨てろと言うことだ。

ピシェット師のアシュラム、いや教室は、大きな仏壇が設置されていて、仏教色満開の中で授業が行われる。マッサージの手技と言うより、密教の修行のような授業で、カリキュラムや時間割はあってないようなもの。ピシェット師の気分が乗らなければ生徒を全く相手にしない。機嫌がいい時だけ施術を見せるのだと言う。

そんな神秘性で多くの生徒を集めている。写真では若く見えるが結構な年齢らしい。生きているうちに、一度は見ておきたいマッサージ師である。

※写真は空中浮揚ではなく、指を鍛えるために両手で体を持ち上げているところ。指だけで全身が持ち上がってしまっているのが凄まじい。