先日、渋谷にある、某協会のスクールでワットポースタイルを学ばれている方がご入会された。学んでいるワットポースタイルの施術を見せてもらったのだが少し驚いた。私がタイのワットポーで学んだワットポースタイルには見えないのである。手技の一つ一つで押しているライン、そして手技の順番構成を個別に見ると確かにワットポーのベーシック・マッサージなのだが、全体を支配している空気、リズム、雰囲気が違う。このため、印象が大きく違う感じになっている。
いったい何が違うのか。詳細に観察してみた。そして今度は私が直接受けてみた。
するとあることに気が付いた。ラインや指圧ポイントはワットポーで教えているのと同じだが、押し方が微妙に違う。指を下からしゃくり上げるような、下からえぐるような微妙な動きが加わっている。その動きがどこから来るかというと、体の使い方である。体重をかけて指圧を加えるときに上半身が舟を漕ぐようなリズムで前後する。その動きが指に伝わって、まっすぐ押しているのだが微妙に前方にスライドしているのだ。
この動きは日本の整体や按摩マッサージ指圧師のやり方である。その他、指圧を始める腕を持ち上げるときなどに腕をぶるぶるぶると振って力を抜かせるテクニックもタイでは見たことがない。座位で頭の後ろに組んだ相手の腕に両手を差し入れて背骨を左右に回転させる技ではタイでは相手は下を向いた状態で終わるが、ここのやり方では相手の体や顔が完全に上を向くほどひっくり返し、お臍が見える状態で後方まで捻る。
全体的にいわゆるプロっぽい動きで、術師という感じが色濃く出た体の使い方である。タイで行われるタイマッサージは、何となく厳かな、静かな、謙虚な、愚直な雰囲気を持っているが、そういう感じではない。
恐らく、この学校の先生はタイマッサージを学ぶ前に多分、それとは異なる手技療法を学んだに違いない。最初に体で覚えた身のこなしがタイマッサージに大きな影響を与えていると考えられる。この学校の先生はその方が効果が高いという信念で教えているのだと思うが、いい悪いの問題ではなく、ワットポースタイルという講座をかなり雰囲気の違うものにしてしまっていることがどうなのか、複雑な気持ちになった。