何年か前に日本の著名シェフのフレンチレストランで出る水が有料ということに関して大炎上したことがあった。水くらい無料で出せよ、これが日本のスタンダードなのだがこれは世界的に見て極めて珍しいことのようだ。タイにも八番ラーメン、幸楽苑、かつやのような日本のチェーン店があり、私もよく行くのだが、どの店も水やお茶は有料だ。メニューは日本とほとんど同じで味も同じ、料金も日本よりは少し安いが水を頼むと100円近くするし、緑茶はその倍くらいする。日本のレストランやラーメン屋でそれらが無料で飲み放題というのがどれほど有難いことかわかる。

私は基本的にチップが嫌いだ。チップが嫌でアメリカにはあまり行きたくない。レストランのウェイターの方の労働対価であり、それが料理の値段に含まれていないので別途支払う、という理屈は納得できるが、厨房からテーブルに運んでくるという、やっていることは同じなのに一律10%でチップが決まるがために高級レストランでは大衆レストランの何倍ものチップを払わなければならない、という不条理が嫌いなのだ。

同様に、外食で酒を飲むのも嫌いだ。料理は手間がかかっているし、その料理を生み出すためにその料理人がしてきた努力や時間を考えるとそれに応じて値段が高いのは納得できる。しかし出てくる日本酒や瓶ビールは買ったものを出しているだけなのに原価の数倍の利益が乗せられている、そういう不条理が嫌なのだ。

水、お茶、コーヒーも自分で作れば限りなく安く、そしておいしいので、外で買うことはほぼない。

そういう人間なので、タイの屋台やレストランで格安なグルメを楽しみつつも、水を注文することにはすごく抵抗がある。かつやでヒレカツ定食をご機嫌に食べるときにもお茶を頼んだら合計金額で日本より高いぞ、と思うと、なくてもまあいいか、と思ってしまう(せこい!)。ところが周りを見渡すとどのタイ人もペットボトルの水やお茶を注文して飲んでいる。その売り上げもお店が存続するための重要な利益になるので水を注文するのはお店へのマナーなのだろうか、それとも見栄っ張りなタイ人は水を頼まないのは恥ずかしいと思っているのか、私がタイの屋台で水を注文しないのは恥ずかしいことなのか、水を注文するのは常識なのか、悩ましい問題である。