前回タイマッサージを行う10の心得について書いたが、それは、お客様に対するマナー、あるいは、向上心を保つための心得であると解釈された方も多くいらっしゃったかと思う。もちろん、それはそれで正しいのだが、タイマッサージマスター達が「心」の重要性を語る理由は実は非常に技術的なことである。
人間の体というのは掌に対する感受性が異常に高い。手を握ってドキドキするだけでなく、握手は重要なコミュニケーション手段である。相手の手が自分の体に接するといろいろな情報が伝わってくる。タイマッサージマスター達はそれを「気」と簡潔に表現する。いい気を出すためにはいい心がなければいけない。だから心が大事なのだ、と言う。
これまでに数え切れないほどの多くの方からタイマッサージをしてもらったが、明らかにいい気を出している人と、いやな気を出している人がいる。いい気を出している人は、心優しく、まじめで、いつも微笑んでいて気配り上手な人が多く、悪い気の人は、時間や約束を守らず、それを悪いとも思わないような人が多い。悪い気というと何やら神秘的だが、技術的に解説すると、丹田への重心の座りが悪いとか、気が散っていたり緊張していたりして掌まで熱が伝わらず冷たかったり、変に汗ばんでいたりする。そして不連続でテンションに満ちたノイジーな圧を相手に与えながら、それが相手に不快感を与えるだろうということに思いが及ばないような感じが伝わってくる。体は不快感と恐怖で硬直しリラックスどころではない。いい気は逆に、圧が滑らかでゆったりしていて角がない、そのため安心感が抜群で身を委ねているうちに寝てしまうような感覚だ。身も心も緩んでいくことは言うまでもない。
その違いが前回の十か条を守っているかどうかで現れるのだと思う。ピシェット道場では、ピシェット師が毎朝「エゴをなくす」ことの重要性について説法を行い、ノーテンション、センシングという技術的なことに入る前に、仏への帰依による徹底的な心の修練に取り組んでいるが、それは技術的にも根拠のあることなのだ。仏教徒になったり、ヨガや禅に取り組むことは心の平安を得るための早道だと思うが、それだけがその方法ではないので、人それぞれ、自分に合った方法で健やかな心を育てたいものである