chepネットでマッサージをやっている人のWEBサイトを見ていると、「うちは強揉みはいたしません。強揉みは筋肉を傷めます」といった記述がちょくちょくある。タイマッサージをしているある人のブログではこんな記述もあった。「お客さんから強揉みを求められることがあるが極力断っている。強揉みをすると筋繊維を傷めるので翌日以降に揉み返しが発生してコリや痛みがより悪化するから。しかし先日、あるお客様から揉み返しがあってもいいから強くやってくれと言われてそうした。案の定、翌日熱を持ったような強い痛みがあり辛かったが、数日するとその痛みもすっかり取れ、いつになく肩が軽くなったらしい。その話を聞き、それは好転反応と言うものかと思った。」

好転反応、そんなものがあるのだろうか? そういう話は聞いたことがあるが、私が習ってきたタイマッサージのスクールにはない概念だ。タイマッサージの世界には基本的に好転反応もないし、揉み返しもない。なぜないかというと、タイマッサージではそもそも「揉む」というテクニックが少ない。揉んだとしても掌全体を使って包み込むように優しく掴むか、指先でセンを柔らかく弾くかくらいで、痛みを発生させるような揉み方はしない。揉むと言うより、圧迫する、弾く、という表現の方が近い。では強くやる時というのはどういう時かと言うと、トリガーポイントをピンポイントで強く押すか、ストレッチを強烈に行うか、の二種類しかない。これらは確かに強烈に痛いが、筋繊維を傷めずに強力に筋肉を解すテクニックである。だから揉み返しも副作用もない。強く痛く行うかどうかの判断は、純粋にお客さんの好みによって決まることとなる。痛いのが好きな人、痛くても解してほしい人には強くやるだけだし、その際に揉み返しとか筋肉を傷めるからという要素はやるかどうかの判断基準にはならない。もちろん肋骨等の骨を折らないように、皮膚に青あざを作らないように、狙う筋肉・トリガーポイントだけにパワーが集中するように気を付けないといけないし、糖尿病のように痛みの感覚が鈍い人にはやりすぎないように注意しなければならない。

では好転反応とは、理論的にどう説明できるのだろうか? 上記のブログの体験談はどう説明できるのだろうか? 私はこう考える。強揉みをした結果、トリガーポイントは解れたが同時にトリガーポイント周囲の筋繊維を破壊してしまった。だから翌日に炎症からくる痛みが発生した。しかし炎症が収まるとトリガーポイントは既に除去されていたので状態は改善されていた。こういうことではないだろうか。つまり、悪いところがよくなる過程でその場所がいったん痛みを発生しているわけではなく、悪い場所の近くの、健康な筋肉と皮膚が一時的に炎症を起こしているだけなのではないか。そう考えると「好転反応」は悪い場所がよくなることには関係がなく、発生しない方がいい。施術過程で筋繊維の破壊や炎症を避けることができれば揉み返しや好転反応を起こすことなく肩は軽くなる。それがタイマッサージの名人芸だと思う。

ただタイマッサージの世界にも好転反応らしきものはある。ジャンルとして本当にタイマッサージなのかどうかわからないが、ボーンナイフというソムキャット先生が得意とするテクニックだ。動物の骨で作ったナイフで患部、例えば背中を全体的に叩きまくる。終わると背中は全体的に真っ赤に腫れ上がる。施術中も痛いし、数日間椅子の背もたれに背中をつけることができないほど痛い。しかし、何日か経つと赤い腫れは嘘のように消えてなくなり背中の凝りも取れる、というまさに荒療治である。原理は幹部の血流を活性化させ、本人の体の自然治癒力を引き出してコリの原因となる老廃物質や悪い血液を一気に流し去ってしまう、ということのようだが、医学的に本当にそうなのかどうか、そしてそもそも、その療法で体の状態がよくなるのかはよくわからない。リオオリンピックの水泳フェルプス選手の丸いあざで有名になったカッピング(吸玉療法)もボーンナイフ療法と同じようなものだと考えられるが、これについても否定的な記事はある。

リオ五輪で流行の「吸玉療法」 丸いあざに潜む危険性

いずれにしても、翌日に体が痛くなるような療法は日本のタイマッサージのリラクゼーションの範囲を逸脱しているし、危険やクレームの原因になるので、一般のセラピストは知識に留めておいた方がいいと思う。