日本でもタイ古式マッサージのスクールは増えている。WEBサイトの講師プロフィールを見ると、ものすごい数のタイのスクールを修了している人が多い。「タイマッサージのあらゆるテクニックを習得済みです」とPRしているように見えるが、そういうことではないと思う。私もそうだったが、一つの学校を終えても自分のタイマッサージが完成したとは思えず、自信もなければ確信もない。そんなとき、他の人の施術を見ると自分と全然違うことをやっている。その人が知っていて自分が知らないことがあると思うと、自分のタイマッサージにはまだ欠落しているものがある、まだまだ習っていないことがあったんだ! と思い、それならその人が学んだスクールで学べば自分に足りないものが補完され、タイマッサージを習得できたという確信が持てるようになるはずだ、とある意味安心して、とりあえず受講する。
ところが、そのスクールを終えても、自分の未完成感は依然として解消されない。自分が施術者として、あるいは先生として、タイのスクールの先生レベルになったとは到底思えない。
悶々と日々を過ごしていても仕方がないので、別のスクールにも行ってみる。受講料は驚くほど安いし、どのスクールも一週間-一か月で修了するので受講はお気軽だ。その繰り返しの結果、数多くのスクールのディプロマが並ぶことになる。その結果、タイマッサージについて確信が得られたかどうかはわからない。確信を得た人もいるだろうし、一応学ぶことは全て学んだのだから完成したのだろうと思ってみたり、やはりタイマッサージの勉強に終わりはないと割り切った人もいるだろう。最悪なのはいくつかのスクールで修了したので自分のタイマッサージは完璧だと錯覚してしまうことだが、多くのスクールに行く人に、そういう人は少ないと思う。
一方、タイでスクールの先生をしている人は一般的に多くのスクールには行かない。金銭面の理由もあるが、言葉の問題がないため、一つのスクール、または団体で長く、深く学ぶ機会が与えられるからだ。ワットポーの先生はずっとワットポーで学んでいるし、チェンマイスタイルの先生は基本的にはオールドメディスンホスピタルで長期間学んでいる。それ以外には、タイ厚生省や大学が提供するカリキュラムが本格的なものだろう。どれも、タイ人が対象なため外国人が入る余地はない。先祖代々、マッサージの技術を受け継いでいる家系もあるだろうし、寺に伝わるマッサージもあるが、タイ人は一か所で長期間学ぶことで技術を完成させる(完成しようと努力する)。逆に言えば、日本人は一か所に留まることが許されていないため、スクール放浪の旅に出ざるを得ない。しかし、どのスクールも初心者向けのレッスンしか提供していない。そこに、超えられない壁がある。
なぜ、タイの先生を越えられない壁があるのか? その理由は、タイ国、タイのスクールが、タイマッサージの技術は国内の貴重な資源として国外に流出させないという基本方針があるからである。しかし壁があれば乗り越えたいと思うのが人情である。タイマッサージを長期間かけて深く学ぶとはどういうことなのか、何を学んでいるのか? 次回以降で、文章化してみたいと思う