だいぶ前だが中目黒の近くにあるラーメン二郎に行ったことがある。ラーメン二郎初体験だったが量の多さ以上にあまりの不味さに驚いた。不味いものをこんなにたくさん食べないといけない、箸をつけた瞬間からフードファイターの後半戦のような苦しさだった。これが多くのファン、リピーターを生み出す高評価な食べ物、というのは、味覚や好みというのは人それぞれだと思ったものである。私がうまいと思ったラーメンは大阪に何店かある尾道ラーメン、東京なら恵比寿にあった香月、横浜ラーメン博物館にあった純連。しかし、それらの店以上に成功を収めているのが二郎なのだから、いい悪い、うまい不味いは一人の人間が決める絶対的なものではなく、人それぞれの感性、好みの問題だ。私が不味いと思っても、多くの人が最高と思うのであれば、二郎の勝ちである。
だからタイマッサージについてもこれがうまい、これが下手、というのは簡単には決められないように思う。私はゴリゴリやるマッサージ機のモミ玉のような施術は好きではないが、そういうのが好きな人の方が多数派かもしれない。タイマッサージを仕事としてやる以上、より多くのお客さんから指名をもらう必要があり、自分の好みではなくお客さんの好みで施術を行うことは当然のことである。
Sというサロンがある。東京で何店舗も運営する成功店で、WEBサイトを見るとしっかりとした研修システムやセラピストの独立支援まで行っていて、会社としてのスタンスが非常に素晴らしいようだ。聞けばコロナで集客に苦戦する店が多い中、緊急事態宣言明けからたくさんのお客さんが来てくれているとのことだ。そんな繁盛店はどんな感じなのだろうと興味を持ち、ピシットタイマッサージスクールの卒業生もそこで働いているので、店を代表するようなセラピストを紹介してもらうことにした。するとSさんという方が指名ダントツナンバーワンだと言う。そこで後日、Sさんに2時間の施術をしていただいた。
色々と考えさせられた。まずいえることは、悪い点が一つもない。人としての雰囲気もいいし、接客態度も、オペレーションの滑らかさも、そして施術自体も、お話も、何もかも満点だ。ただ、そういう悪いところがないからということではなく、何か人とは違う抜きんでたところがないと指名ダントツにはならないだろう。さてそれは何か?
まずは施術についてだが、非常にいい。何がいいかというと、相手の体との会話ができている。手が触れる度に、ここは凝っていますね、しっかりめにやりますね、と語りかけられているようだ。指圧が入る際には、失礼しますね、痛くないように少しずつ強くしていきますね、という感じで相手のことを思いながら入ってきてくれる感じがある。言葉でそれを言うのではなく、無言で、指や手のタッチだけでそう語りかけられているように感じるのだ。だから強くても体を委ねられる安心感がある。
技術的には脚から行うオーソドックスなタイマッサージの技が少なめで、背中や肩周りを中心に私が知らないようなやり方が多々あったのでどこで習ったのか聞いたら自分で考えたと言う。天才なのか・・・? それらのいくつかは強く弾くようなパターンもありそれ自体は私好みではないがラーメン二郎的にはそれが世の中のニーズなのだろうから問題ない。とにかく、タイマッサージの範囲を超えて誰もやっていない独自の技まで行っているというのはすごいことだし誰にでもできることではない。これが指名ダントツの理由か。
これらのことが彼女の人気の源であることは間違いないと思うが、何週間か経って振り返った時、彼女の最大の魅力は、やはり接客態度だったのかもしれないと思うようになった。丁寧とか優しいとか、そういうことではなく、私が行ったときの嬉しそうな表情、私と話すときの楽しそうな顔、そして帰るときのまた来てくれたらきっとすごく嬉しいという雰囲気。ひょっとして俺のことを好きなのか? 私ごときでこんなに喜んでもらえるのならまた行こう、と誰でも思うだろう。商売何にでも言えることだと思うが、来てくれてとても嬉しい、この感情表現こそがたぶん最も重要だ。
余談だが、中目黒のラーメン二郎のオヤジはものすごく不機嫌そうで超愛想なしだった。それであの集客、ラーメン二郎恐るべし、である。